10.Dream
◆ 2009年「幻夢」・30F
【 tapir 】
この作品「幻夢」を描いた2009年ころまで、私はある誤解をしていた。
日本には『獏(ばく)が、悪い夢を食べてくれる』という伝説がある。
私は、それを、古代中国から伝えられた、定説だと思い込んでいた。
結論から言うと、獏は夢を食べない。
「獏」は、古代中国の想像上の動物で、縁起のいい霊獣である。
後に、実在の動物に「ばく」の名が付けられた。 「 マレーバク 」である。
獏の毛皮を、敷物や寝具にして、それで休むと、病気を避けられるそうだ。
獏は、古くから、悪い気を祓ったり、魔除けの象徴になっていたらしい。
ならば「夢を食べる」説は、いつどこで生まれたのだろう?
獏と同様に、「 パンダ 」も、昔は、幻の珍獣「UMA」であった。
竹を食べるパンダ は、硬い物を食べることから、鉄や銅も食べるとされた。
金属を食べるなら、戦争に使う “武器” も食べてしまうはずだと考えられた。
戦争兵器が無くなれば、戦争もできなくなり、平和な世の中になる。
戦争が始まるかも知れない不安も、一種の悪夢だと言えるだろう。
不安から解放されることによって、安眠が得られるのだ。
パンダと、マレーバクは、白黒の毛皮の模様がよく似ている。
つまり、これらの毛皮と伝説が、混同されて、結合された可能性が高い。
【 Nightmare 】
人類にとっての悪夢とは何だろう?
そんなことを、漠然と考えながら「幻夢」を描いていた。
夢の形は、雲のように、湧き上がり、立ちのぼっていく。
お寺の門に、魔除けの飾りとして「 獅子と獏の彫刻 」が彫られている。
「獅子」は、自らの力を誇示し、敵を威嚇して、怯えさせ、争いを抑止する。
「獏」は、自ら進んで争いを放棄し、お互いの武器を食べてしまうのだろう。
現実のバクは、夢を食べないし、 パンダも笹しか食べない。
人類は、現実世界の中で生きている。
しかし、人は、心の内に、もう一つの世界「無意識世界」を持っている。
そして、夢の中では、現実世界と、無意識世界が、入れ替わる。
だから、自分の心の内に、「 自分の獏 」を棲まわせよう。
夢は夢。目覚めればいつか消えてしまう。
忘れていた悪夢が、また蘇る。
ゆめ、これ、ありやなしや。