19.phoenix



◆ 2020「翔鳳図屏風」
六局一隻,Six paintings,174.0×370,0cm

Flyng phoenix folding screen

2020年、コロナ禍が地球を覆った。
世界の主要都市がロックダウンされ、東京オリンピックの開催が延期された。
私は自分のスタジオに閉じ籠もって、この作品を制作した。
それはとても必然的な、私に与えられた使命だった。
硫化銀の黒い円は皆既日食だ、黄金の太陽コロナを放射している。
2羽の鳳凰が、何事も無いかのように、その上を悠然と飛び越えて行く。
未来に向かっていく。

In 2020, the COVID-19 pandemic spread across the globe.
Major cities around the world were locked down, and the Tokyo Olympics were postponed.
I shut myself in my studio and created this work.
It was a very inevitable mission that was given to me.
The black circle of silver sulfide is a total solar eclipse, radiating a golden solar corona.
Two phoenixes fly majestically above it as if nothing had happened.

18.Regeneration


◆ 2011「回生」・100F

【Régénération】

2011年、日本列島の東海岸を巨大地震が襲った。
巨大地震は巨大津波に連鎖した。
巨大津波は原子力発電場を破壊した。
停電した街は暗闇に包まれた。
何もかも破壊するエネルギーも、光や生命を生み出すエネルギーも、それらは同じだ。
向かう方向性が違う、逆回転している。
私は、命の光を描かずにいられなかった。

In 2011, a massive earthquake struck the east coast of Japan.
The massive earthquake triggered a massive tsunami.
The tsunami destroyed a nuclear power plant.
The city lost power and was plunged into darkness.
The energy that destroys everything and the energy that creates light and life are the same.
They are heading in different directions, revolving in opposite directions.
I could not help but paint the light of life.

17.Capricorn


◆ 2017年「カプリコーン」・60P

L'Après-midi d'un faune

カプリコーンとは、黄道十二星座の山羊座の名称である。
古代、山羊座は、黄道十二宮の磨羯宮に位置した。
磨羯とは、インド神話に登場する怪魚マカラのことである。
山羊であり、怪魚であるカプリコーンの姿については、諸説ある。
その中の一説が、ギリシャ神話の牧羊神パーン(アイギパーン)が、魚に変身する途中の姿だとする説だ。

まどろむ牧羊神は、どんな夢を見ていたのだろう?

16.Unicorn

 

◆ 2013年「貴婦人と麒麟」・10F

La Belle et la Bête

麒麟(Qílín)は、古代中国に伝わる霊獣である。
頭に一本の角がある、鹿のような、馬のような、龍のような獣だ。
似たような霊獣がヨーロッパにもいる、ユニコーンだ。
やはり、頭に一本の角があり、白い山羊のような馬のような獣だ。


◆ 2014年「麒麟と乙女」・25F

La Dame à la licorne

不思議なことに、ユニコーンは乙女に思いを寄せているという。
ユニコーンが角に触れることを許すのは、処女だけなのだ。
白馬のようなユニコーンは、白馬の騎士の比喩のように感じる。
貴婦人を守るために、命を懸けて一騎打ちの決闘をする騎士だ。

麒麟は、為政者が善い政治をして、世の中が平和な時に姿を現す。
麒麟は殺生をしない。
虫や草花を踏まないために、足を地面に着けず、宙を飛ぶ。
麒麟の角は、先が丸く、柔らかな皮を被っている
しかし、麒麟を攻撃して倒すことはできない。
麒麟の防衛力は、全ての生物の中で最強なのである。

15.Swirling feelings



◆ 2013年「想い渦巻く」・10F

【 Spiral 】

想いは広がり、駆け巡り、再び集まり、また広がり…
現れて、消えて、同じだけれど、同じではない。
深まり、高まり、いつまでも、どこまでも、繰り返す。

14.Siesta



◆ 2013年「Siesta2」・15F

【 Fall asleep 】

眠るのは夜だけとは限らない。
夏の強い日差しを避けて、生き物たちは木陰に隠れて眠る。

ハンモックに揺られ、読みかけの本を手にしたまま・・・

 寝落ちする。

それは、とても気持ちのいいことなのだ。
本来、眠っている状態が、生き物の在るべき状態なのだ。
何もしなくても、それでも生きてい行けるのならば。
しかし、そういうわけにも行かない。
だから、起きて、活動しなければならない。
それが、生きるということだ。

◆ 2013年「Siesta1」・15F

13.Kiss


◆ 2013年「KISS」3D・H20.5cm×W15cm×D14.5cm

Sleeping Beauty

英語「Sleeping Beauty」ドイツ語「Dornröschen」
フランス語「La Belle au bois dormant」
日本語「眠り姫」「茨姫」「眠りの森の美女」

お伽噺で王女は、魔女の呪いで、100年間も眠り続ける。
100年後、王子の KISS で呪いが解け、王女は目覚める。

眠っている間、どんな夢を見ていたのだろうか?

科学的に考えると、その眠りは、普通の睡眠では無い。
仮死状態の冬眠「コールドスリープ (Cold sleep)」である。
この場合、脳の活動は、極度に低下、あるいは停止している。
従って、冬眠中には、夢を見る可能性は、極めて低い。
しかし、覚醒の過程では、夢を見る可能性がある。
臨死体験では、死後の世界をイメージした夢の報告がある。

白い肌、赤い唇。死と蘇生。白雪姫にも類似している。

12.Slumber


◆ 2013年「Slumber」・20F
 
The Pillow Book

『春はあけぼの
やうやう白くなりゆく山ぎは
少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる』
枕草子 / 清少納言

本を読みながら眠りに落ちる。
まどろみが、夢へと誘い込む。

11.Year of the Phoenix


◆ 2010年「歳鳳図」・25F
 
Archaeopteryx
 
魚や爬虫類が、長い年月を生きて、神性を宿すと、蛟(みずち)になる。
蛟は、やがて龍になり、翼を持つと「 応龍(應龍) 」になる。
応龍から、鳳凰が生まれる。鳳凰は、全ての鳥類の始祖になる。
 
現代の科学では、龍も鳳凰も、実在しない想像上の生き物だと考える。
しかし、中世以前には、そうは考えない、そもそも科学が無い。
古代中国には、ダーウィンの進化論など無い、生物学も無い。
なので、古代人は、物事を、直感的に判断して、神話に記した。
 
人間は、宇宙の一部であり、宇宙と同質であり、宇宙と相似形である。
ならば、人間は、宇宙の「 構造 」を、直観的に知るはずだ。
直観と科学は、乖離し、符合し、やがては一致するのかも知れない。
 
現在の古生物学研究は、急速に進歩している。
水生恐竜に対して、陸生恐竜 の認識は、大きく変わりつつある。

10.Dream


◆ 2009年「幻夢」・30F
 
tapir
 
この作品「幻夢」を描いた2009年ころまで、私はある誤解をしていた。
日本には『獏(ばく)が、悪い夢を食べてくれる』という伝説がある。
私は、それを、古代中国から伝えられた、定説だと思い込んでいた。
 
結論から言うと、獏は夢を食べない。
 
「獏」は、古代中国の想像上の動物で、縁起のいい霊獣である。
後に、実在の動物に「ばく」の名が付けられた。 「 マレーバク 」である。
獏の毛皮を、敷物や寝具にして、それで休むと、病気を避けられるそうだ。
獏は、古くから、悪い気を祓ったり、魔除けの象徴になっていたらしい。
 
ならば「夢を食べる」説は、いつどこで生まれたのだろう?
 
獏と同様に、「 パンダ 」も、昔は、幻の珍獣「UMA」であった。
竹を食べるパンダ は、硬い物を食べることから、鉄や銅も食べるとされた。
金属を食べるなら、戦争に使う “武器” も食べてしまうはずだと考えられた。
戦争兵器が無くなれば、戦争もできなくなり、平和な世の中になる。
戦争が始まるかも知れない不安も、一種の悪夢だと言えるだろう。
不安から解放されることによって、安眠が得られるのだ。
 
パンダと、マレーバクは、白黒の毛皮の模様がよく似ている。
つまり、これらの毛皮と伝説が、混同されて、結合された可能性が高い。
 
Nightmare
 
人類にとっての悪夢とは何だろう?
そんなことを、漠然と考えながら「幻夢」を描いていた。
夢の形は、雲のように、湧き上がり、立ちのぼっていく。
 
お寺の門に、魔除けの飾りとして「 獅子と獏の彫刻 」が彫られている。
「獅子」は、自らの力を誇示し、敵を威嚇して、怯えさせ、争いを抑止する。
「獏」は、自ら進んで争いを放棄し、お互いの武器を食べてしまうのだろう。
 
現実のバクは、夢を食べないしパンダも笹しか食べない
人類は、現実世界の中で生きている。
しかし、人は、心の内に、もう一つの世界「無意識世界」を持っている。
そして、夢の中では、現実世界と、無意識世界が、入れ替わる。
だから、自分の心の内に、「 自分の獏 」を棲まわせよう。
 
夢は夢。目覚めればいつか消えてしまう。
 
忘れていた悪夢が、また蘇る。
 
ゆめ、これ、ありやなしや。